漫画と北国とわたし

ゴールデンカムイの考察だの感想だの聖地巡礼だのをつれづれと。本誌ネタバレ含みます。(他作品語るブログはじめました→ https://mochimochihq.hateblo.jp/ )

【本誌ネタバレ含】懐刀月島【憶測年表付き】

キャラに愛を叫ぼうシリーズ、今回は月島軍曹。
月島さんについては深すぎて一度考え出したら止まらなくなるので考えないようにしていたのですがそろそろ耐えられなくなったので語ります(話が長い)。



まず…

☆月島軍曹ってこんな人☆
最初は尾形同様モブな雰囲気で登場したはずなのに今や万人の心を掴む必殺仕事人で鶴見中尉の懐刀。話の序盤で和田大尉をなんのためらいもなく撃って読者に衝撃を与えた。その後大尉をお花の養分にしたのも多分彼。
扱いにくい芸術家のお世話も面倒くさい年下お坊ちゃん少尉のお世話もうまいことこなして信頼を勝ち取っているほど仕事のできる男。
自分の役割を理解しすぎてて無表情で仕事を淡々とこなすんだけど、たま~に素の表情になることがあり、物言わずともそこで一気に人間性を感じられるというものすごく深いキャラクター。
ロシア語ペラペラでかっこいい。下の名前は基(はじめ)さん。


というわけで(?)、また年表作ってみました。


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月島さん現在推定33歳か~男盛りですね。かっこいいわけだね。
憶測年表が正しければお世話してる鯉登少尉とはちょうど一回り離れているんですね。おや、下手したら干支一緒か。戌か亥。なるほど。…でしょうね(笑)


というわけで、月島さん。
この人ほんとかっこいいです。野田先生のお墨付きのかっこよさ。
鶴見中尉に心酔しているわけではなく、北海道が戦争中毒になる危険性を理解していたり、接近戦で尾形圧倒したり、網走で「看守は看守です」とか冷徹なこと言ったり、スチェンカで自分を馬鹿にした男に拳で勝ってロシア語で「舐めるなよ」とか言ったり、山田団長をスパイだと瞬時に理解したり…まあほんと挙げれば切りがないほどのかっこよさ。
それだけでなくスチェンカでは挑発に乗っちゃったり少女団ガチ勢のげんじろちゃんを無言で見守ったり月島さんがかっこいいだけでなくいい味出してるのを見れる機会も増えて大変素晴らしい。


そんな月島さんですが、わたしが月島さんのことを真剣に考える上で欠かせないと思ってるのが、江渡貝くぅん編と過去編です。


江渡貝くぅん編は、前半はなんだか月島さんが親しみやすい感じになり後半は月島さんの気持ちを思って胸が苦しくなるという塩梅ですかな。


まず前半ですが、フェイク人皮作らせるために江渡貝くぅんの悪態も右から左へと流し、扱いにくい芸術家をうまくのせて淡々と自分の仕事しているところがいいよね。
「集中集中!」っつって。

このあたり、江渡貝くぅんの面倒くさい性格をのせてなだめて刺青人皮完成させてすごいなと思っていたけど、
月島さん普段から鯉登少尉っていう面倒くさい子を相手にしていたから慣れっこなんだねというのが11巻でわかりましたよね。


そして後半注目したいのが江渡貝くぅんの死の報告後、鶴見中尉のところを去る時の月島さんの怒ったような憮然とした表情。
月島さんがあんなに感情を露にしたのってここが初めて(多分)。

なんとなく月島さんは尾形と似て感情をあまり表情に出さないタイプだと思っていたものでちょっと驚いたのと同時に、誰も見てないところではこんな顔するってことは普段感情を圧し殺してるだけで元来は激情家なのかなと思える一コマ。


で、月島さんがあの場面で深い憤りを覚えているとするならば、一体何に対してだろうかと考えてみたところ、三つほど理由が浮かびました。

軍も刺青も関係ないところで暮らしていた江渡貝くぅんを自分たちの都合で巻き込んで殺してしまったことに対する憤りと、
それに対して特に何も思ってないっぽい鶴見中尉への猜疑心と、
何より、その結果を招き、その結果を受け入れざるを得ない自分自身への激しい怒り。
多分最後のが一番大きな理由なのかなと。
月島さんからしたら、江渡貝くんを見捨てて自分だけ刺青持って戻ってきちゃったわけですしね。


そうだとすると月島さんてすごくすごく人間らしくて優しい人ですよね。
自分の役割としては全く間違ったことはしてないんだけど、それでも感情は抑えられないでいる。
怒り、憤り、憐れみ、というちゃんと人間らしい同情心を持っているし(これはキロちゃんや白石にも共通してると思います)、
鶴見中尉の言う「身の毛もよだつ汚れ仕事」を見事にこなしてしまえる自分にも憤れるのは本当に優しくて深い人だなと思います。


作者の野田先生も言ってたけど、芸術家である江渡貝くんは鶴見さんという理解者を得て自分の役目を果たして死んだわけだから江渡貝くんからしたら幸せだったわけだし、
鶴見中尉は江渡貝くんを理解していたから、作品を残すことが最重要で、作品が遺っている以上は「江渡貝弥作の死=芸術家江渡貝くんの死」ではない事を分かってるんだけど…

月島さんからしたらそんなん分からないし、何より江渡貝くんという人間の死を見てしまったわけだしその原因が自分にあると思ってるからそりゃあやる瀬ないですよね。
だからこその、あの表情。
月島さん…なんて人間らしい。



そして月島さんを語るに欠かせないのが過去編です。(単行本では15巻に収録されるはずです。)

駆け落ちの約束をした愛する人が死に、その原因を作った父親を殺し(この時表情がないのがつらい)、死刑囚として死を受け入れてたところに鶴見中尉(この時は少尉)がやってくると。
死刑は免除され、ロシア語を勉強し、北海道とロシアで活躍した後に奉天でいご草ちゃんのことを知る人に会うと。
結局いご草ちゃんの生死に関する話は全て鶴見中尉の嘘で、愛する人が死んだこと父親を殺したことも利用され、自分の命さえも全て鶴見中尉のシナリオ通りだと月島さんは分かっていて、
その上で鶴見中尉に忠誠を誓っていると。
いご草ちゃんの話は正直何が本当か分からないですが少なくとも月島さんは真実を突き止める気はなく、騙されたままで傀儡として生きていくことを決めたんだろうなと。


この過去編は、杉元への
「自分を制御できなければいつか取り返しのつかないことになる」
という月島さんの言葉が入りになってるんですが、
この「取り返しのつかないこと」というのが父親殺しの罪で収監されたことで、いご草ちゃんの死の真相を知ることができなくなった事実であり、鶴見中尉に抜擢されてお供していることであるのかな…。
つまり今自分の置かれてる状況全てが月島さんにとって「取り返しのつかないこと」なんだとしたら…

…これは本当につらい。
見ていられない。
だってあまりにもじゃないか。


尾形も親に愛されず育って可哀想だけど、尾形は割と自分で道を選んで行動してるんですよね。
でも月島さんは自分で選ぶことさえ出来なかったんですよね。

自分を生かしてくれたとはいえ、この先自分を利用し尽くすであろうことが分かってる相手についていくって、どれ程の覚悟があれば出来るんだろうと思ってしまう。
たまに感情が込み上げている月島さんを見るに、月島さんは人生を投げ捨ててはいないから、その境遇と与えられた役目が余計に悲しくなるのですよ。


ゴールデンカムイは『役目』の物語で、登場人物全員が役目を持っているわけだけど、
月島さんの役目はあまりにも切ないなぁと思います。


いつの日か鶴見中尉に与えられた役目ではなくて、自分で役目を見つけられたらいいなぁ月島さん。


月島さんはいご草ちゃんが生きてて、駆け落ちできていたら温かい家庭を築いただろうなと思うくらい根が優しい人間らしい人だと思います。

人間らしく優しい仕事人。
これは誰もが好きになりますわね!!


幸せになってほしい月島さん。
間違っても音之進に撃たれそうな鶴見中尉をかばって死んだりしないでくれ。
なんなら音之進に救われてくれ。



というわけで終わります。




…ここからは与太話、
いご草ちゃんほんとは本当に生きていたらどうします?
なんか月島さんが死にかけてる時に会えるとかだったらどうします?

月島さんといご草ちゃんの話はロミオとジュリエットっぽいなあと思うんですが、ロミジュリのジュリエットは死んだと思ってたら実は生きてたし(その後死んじゃったけど)、いご草ちゃんも生きてる説あるかなぁなんて…というか生きてたらいいなぁなんて。

それなら月島さんが感情を殺して鶴見中尉に尽忠したのも報われるのかなぁ。
でもそれはなさそうだ…。



現在の樺太旅、10歳前後年下の若者たちに振り回されて大変そうだけど、そのドタバタが月島さんにとってちょっと悪くない、みたいな感じだといいな~。(熱烈な希望)


(9/19 追記)
単行本15巻の加筆を受けて、また違った見方もできるかなと思ったので書いてみました。↓
mochikuchen.hatenablog.com